営業マン時代
わたしも一度だけお客様からものすごいお叱りを受けたことがある。当時は、下記にあるような吐瀉効果と反復効果という対面話法を知らなかった。
今思い出すと、
「こんなひどい営業マンは当社との長い関係の中で初めてだ。」
と言われて、切れたりこそしなかったが、ショックを受けて、何の説明も善後策の交渉も出来ずに無言で最敬礼だけして退出したことを憶えている。
吐瀉効果
クレームを訴えるお客様が非常に怒っている場合、クレームへの原因説明や言い訳などを即座に切り出すのはかえって逆効果である。
まず、お客様の言い分を黙って聞くこと。勿論、謙虚に下を向いて真剣に聞くこと。
お客様が怒鳴っているうちに、何について怒っているのかを探りながら聞く。
怖いし、嫌な場面だが、相手の語気に気おされて動揺しないようにできるだけ冷めた頭で聞くこと。
お客様に合わせて熱くなってはいけない。
聞いていると怒っている内容がいくつかに絞れてくる。
例えば
@製品が不良品だったから怒っているのか?
A代わりに送った品物の到着が遅かったからなのか?
Bあるいは遅くなると連絡しなかったからなのか?
C受付の女性が謝らずお客様を見透かしたような態度に出たからなのか?
もしお客様がCで怒っていたとして、お客様の話を聞かずに@だと早合点をして、
「いや、すみません。不良品をお届けしてしまいまして、値引させていただきますので。」と言ったら火に油を注ぐようなものである。
お客様の怒りはいつまでも永遠には続かない。怒りつづけているうちに自分が何故怒っているかをお客様も理解してくる。
あなたが聞き取った内容と同じことだと共有できることが大事。
また、怒りはある意味で人の脳に快感をもたらす。
怒っているうちに言いたいことをすべて言ってしまう事で脳は沈静化してくる。すっきりしてくる。
これを吐瀉効果という。
気分が悪い時に胃の中のものを全部吐いてしまうとすっきりするように、頭の中のものもすべて出すとすっきりする。
お客様が「何とか言ったらどうだ!」というまでしゃべってはいけない。
そこで、反論をまくし立ててはならない。我慢のしどころである。
「このたびは誠に申し訳ございませんでした。今回の不手際について理由を申し上げてもよろしいでしょうか?」とお伺いを立てる。
お客様にはほどなく怒鳴ったことによる快感の波が押し寄せてくる。頷いてくれるだろう。
誠実に自分のクレームを聞き、恐縮している営業マンに対して精神状態で優位に立っていると思うようになり、
営業マンに対して「言い過ぎたかな?」と思わせればその後の善後策も冷静に話し合うことができる。
反復効果
どうしてもお客様が納得してくれない。それどころか、怒りがエスカレートして収拾がつかなくなることもあるだろう。
営業マンも人間である。どうしても我慢できない一言がある。
切れる! 「その一言だけは許せない。」というものがある。
でも、そこでもう一回押さえることができるかが、一流営業マンかそうでないかの差である。
これは、サッカーのストライカーが、絶好のパスをもらってゴールを決める際にふっと一呼吸おけるか、直線的に打って噴かしてしまうかの差である。
例えば、「お前みたいなウスノロはもう来なくていいよ!」と言われたとする。
その時に「何だと、もう一度言ってみろ!」と言ったら、お客様との関係は終わりである。
同じことをこう言うのだ。
「確かにウスノロかも知れませんが、担当を別の営業に替えろとおっしゃっているのですね?」
と相手が言ったことを反復する。
ここまで冷静になれなかったら、機械的にこう返す。
「『お前みたいなウスノロはもう来なくていいよ!』とおっしゃいましたか?」
相手は冷静さを失っているのである。言ったことは言った瞬間に忘れている。
それを営業マンから反復されると、後から録音した自分の言葉を聞くことになる。
「そんなひどいことを言ったんだろうか?」という気にさせれば、成功である。
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