門前の小僧
かつて会社の営業研修のお手伝いをしていたことがある。
当時はバブル絶頂期で、営業研修も花盛り。営業研修用に2泊3日程度の宿泊施設を探してもいつも満杯で、遠く河口湖や相模湖まで出かけて行ったのを覚えている。
「門前の小僧習わぬお経を読む」の喩えどおり、わたしもお世話をしているうちに営業研修をやっている講師の話術やマーケッティング理論までものまねできるようになった。
このページでは、そんな営業戦略上の理論を断片的に覚えているので、TIPSとしてご紹介する。
あくまでTIPSであって体系化されたものでないところが私らしくて好きなんである。
あちこちデパートの食品売り場で試食をしたつもりで眺めていただきたい。
営業研修の手順
営業研修の手法はコンサルタント会社により差はあるものの、大体はアメリカの経営理論や心理学などの理論を輸入し、日本用に加工したものがほとんどである。
ロールプレイングによる対面話法、マーケッティング理論、リーダーシップ論、センシティブ教育、モチベーションアップの手法、
診断ツールによる行動パターン分析などなど。
わたしの担当した研修会は営業戦略を練るというテーマが多かったが、やり方は表面的にはどこのコンサルタントも同じである。
まず受講生を4,5人の小グループに分ける。
自己紹介などを通じて、各グループの中で中心となりそうなメンバー=ボスにあたりをつけておく。 研修というのは、日頃の業務から離れた開放感があったり、あるいは研修そのものをありがた迷惑に思っている連中が多い。
特に外を飛び歩いている営業マンほど、そうだ。
ともすると、研修が妨害されてしまう恐れもある。コンサルタントは2日なり3日間を乗り切らねばならない。
最初が肝心である。いわゆる「ボス」的存在の研修生を手なずけるか、ガツンとやっつけるかすることができるかが、良い研修になるかどうかの分かれ目になる。 各グループのボスの名前を覚え、講義中に質問を振る。反応を見る。
明らかに敵対するようなボスには、理論をまくしたててやりこめたり、
時には怒鳴ることで研修を引き締めようとする。
反面、講義中に「笑い」をとることも忘れてはいけない。おそらく落語や漫才の”間”と話術を訓練しているに違いない。
あるコンサルタント会社はジョークも同じものを覚えさせていた。
研修の進め方も似たり寄ったりである。
まず、一般的な営業戦略の講義を行い、各グループに対して課題を出し、討議させる。
受講者は与えられたテーマに沿って「ウチ」の話をする。日頃から自分の仕事について問題意識を持っているので、議論は結構白熱する。
頃あいをみはからって、ポストイットと模造紙とマジックインキが登場する。
縦横の2次元マトリクスを模造紙に書き、各自ポストイットに課題や論点を書き、模造紙に貼り付けていく。
次に模造紙に貼られた論点を整理し、営業戦略目標に整理していく。
戦略目標策定は昼食、夕食、夜食を挟んで深夜まで続く。
皆現実の業務から地理的にも書類的にも隔離されている。
ここがミソである。
頭の中にある売上高や得意先の状況や新製品の市場規模や競合他社のシェアなど実際の数字は持ってきていない。
(たとえ、研修の事務局であるわたしが販売データを持参してきたとしてもコンサルタントはハナからそんなものを使うつもりはない)
問題意識とモチベーションは同僚との討議と講師の話術により高まっている。また、合宿所なので他にすることがない。
結果、自分でもびっくりするような(とそのときに感じる)立派な営業戦略書が完成する。
ただし、営業現場へ戻ってその研修が実際の役に立つことはまずない。
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